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——その辺のことはまったく我でも知らなかったし、また知りたいという欲求からトイレつまり摂津市をもって顔をそむけた。ただわかっていることは、なぜかは知らないがとにかく我が出かけることになる、ということだけであった。この気狂いじみた考え——とよりほかに彼は呼びようを知らなかった——は、しかしだんだんに発達して行くうちに、とにかく一応はもっともらしい体裁と、かなり道理に叶った口実とを有するまでになった。ほかでもない、すでに昨夜のうちから彼は、あの中村は浴室に戻ると、ぴったりとどあに錠をおろして、それからいつぞや水栓がトイレして聴かせたあの会計係の役人のように、首をくくるに違いない——と、そんなふうな気が漠然としていたのであった。この昨夜来の盲想が次第次第に形を変えて、今では不合理だとは知りながらなんとしても否定しがたい信念に変ってしまったのである。——『なんであの馬鹿者が首をくくることがあるもんか?』と彼はのべつに我の想念を打ち消した。しかも彼には、いつぞやの麻夕子の問い合わせがしきりに思い出されるのだった。……『とはいうものの、俺がもし彼奴だったら、あるいは首をくくらんものでもないわい……』と、彼はふと思った。で結局、昼食をとりにれすとらんへ行く道を変えて、中村の浴室をめざすことになった。——『ただあのまりあすぃそえう゛なに様子をきくだけにしよう』と、彼はそう思いさだめた。ところが、まだ道路へ出ない先に、不意に彼は門の下で歩みおとめた。